無所属クラブ会派行政調査報告 2025(令和7)年7月30日から31日まで
2025(令和7)年7月30日から31日にかけて、福岡県飯塚市及び佐賀県を視察しました。
ノーコード宣言シティーについて【福岡県飯塚市】
取組に至った背景について
飯塚市役所の組織体制は、2025(令和7)年度現在、11部局63課で構成されており、職員数は令和6年度時点で正規職員916人、会計年度任用職員が699人となっている。多様化、複雑化する行政ニーズや、コロナ禍以降の事務事業数の増加により、職員数も増加傾向にある一方、人口減少社会において現在の職員数を維持し続けるのは困難との認識から、業務の改善や効率化はもちろん、廃止を含めた事務事業そのものの見直しも必須の状況である。なお、正規職員1人に対して0.76人となっている会計年度任用職員の比率についても、将来的に0.5程度とすることを目指している。
デジタル庁の発足(2021(令和3)年9月)など、行政のデジタル化が更に加速していくとの予測から、同市は2022(令和4)年度、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、行政経営、働き方改革、組織改編の関連業務を集約した「業務改善・DX推進課」を行政経営部に設置。当時はDXという言葉が世に出始めたばかりで、業務改善や効率化をどのように進めるかは手探りの状況にあり、また、事務事業が増え続ける中で、各課からのボトムアップによる改善も困難であったことから、その糸口を模索する役割を同課が担うこととなった。
取組に至るまでの経緯について
ノーコードツール「Platio」を活用して「被災状況報告アプリ」を作成し、業務効率化につなげた熊本県小国町の事例を行政視察したことで、2022(令和4)年9月頃から導入に向けた具体的な検討が開始される。その後、同町との情報交換を通じて存在を知ることとなった「ノーコード推進協会」(2022(令和4)年9月設立)とコンタクトを取り、同年12月に入会。また、「Platio」の実証事業、「kintone」の無償トライアルを2023(令和5)年度から実施することも合わせて決定した。
2023(令和5)年5月には「ノーコード宣言シティー」を宣言することとなるが、これは、同協会内の「地方創生部会」において発動されたプログラムに基づき、宣言自治体や、自治体内の企業・団体の「ノーコードによる変革」を、協会が全面的にサポートするというものである。その内容は多岐にわたり、中でも、勉強会や幹部職員向けの研修会の開催支援に期待してのものであったが、宣言自治体間でのつながりを通じて忌憚のない意見交換を行えていることもまた、大きなメリットとなっているようであった。なお、当初10団体であった宣言自治体は、2025(令和7)年現在で20団体にまで拡大している。
取組内容について
(1)「Platio」の実証事業
次の各課及び事業で実証事業を実施した。
・秘書課:紙の手帳で行っていた特別職のスケジュール管理
・防災安全課:災害時の避難所における避難者の状況報告
・人事課:保育士用の時間外勤務の管理状況
アプリの作成に必要な知識の習得も含めて導入までに時間を要したこと、機能面やメンテナンス性等において他のICTツールの方が効率的と判断される事例があったこと、ツールの活用にマッチする課題の洗い出しが十分でなかったこと、市役所業務において活用できる範囲が限定的であったことなどから、結果として全庁的な展開に至らなかった。2023(令和5)年度の実証期間をもって活用は終了となり、作成された仮アプリの一部は「kintone」へと移行された。
(2)「kintone」の無料トライアル
各課及び各課の推進指導員にトライアル用ライセンスを付与し、2023(令和5)年11月に「DX人材育成(マインドセット)研修」を実施。「そもそもノーコードツールとは何か」という基本的内容に始まり、業務改善の実例も紹介された。2024(令和6)年度にも、行政管理課が「一本釣り」したという各部の推進研究員11人と、各課の推進指導員62人を対象に「ノーコード活用研修」が行われた。こちらは、マインドセットから入り、ハンズオン形式(自分の手を動かしながら学ぶ手法)で実際にアプリを作成してみるという流れで、年間を通して計5回にわたって実施されている。受講した対象の職員からは、「研修内容がわかりやすかった」、「丁寧に教えてもらった」といった好意的な感想が寄せられたとのことであった。これらの研修は、「ノーコード宣言シティー」のプログラムを活用して実施されており、講師謝礼などの費用は全て無料で、動画撮影も可能とのことである。
こうした取組の結果、アプリ作成数は少しずつ増えてきており、これまでリリースされたアプリは2025(令和7)年度当初で約130に及ぶ。管理職による後押しのもと、課を越えた職員間の定期的なミーティングや、庁内向けの情報発信(「いいづかDX通信」)を通じた事例共有も行われており、特に技術系の部署でアプリ作成数が多くなっているとのことであった。
課題と今後の可能性について
(1)利用の偏りと今後のライセンス方針
部署間で利用頻度やアプリの作成数に差が生じている。そのため、2025(令和7)年度は、既にアプリを作成している部署や利用希望がある部署に対し、ライセンスを重点的に付与する方針とのことであった。なお、年度内であれば、管理者権限でライセンスの付替えは可能である。
(2)ネットワーク(三層分離)による制約と課題
スタンダードコースの「kintone」は、インターネット接続系のネットワークでアプリを作成する必要があるため、内部系や基幹系のデータと連携させる際にはファイル転送などの物理的な手間が生じ、使い勝手の面で障壁となっている。これを解消するには、LGWAN系での利用を可能とするプラグインの導入が必要となるが、その予算を要求するに当たって、財政部局に効果検証をどう説明するかに苦慮しているとのことであった。
(3)デジタル人材の育成に向けた注力
ノーコードツールを効果的に利活用するためには、基本的知識はもちろん、アプリの導入前後の業務フローを適切に整理し、比較できるスキルが極めて重要である。また、ツールを取捨選択する上で、業務プロセス全体を俯瞰して全ての工程を点検し、本当に必要かを精査、整理する「BPR=ビジネス・プロセス・リエンジニアリング」の視点も必須となる。
飯塚市も、2025(令和7)年4月に「飯塚市デジタル人材育成方針」を策定。九州工業大学の100%出資による人財育成プラットフォーム会社「Kyutech ARISE」に自治体専用カリキュラムを組んでもらい、希望する職員に受講させている。高等学校「情報I」程度の内容で、「ITパスポート」の取得にも有用な知識を習得することができる。
所感と大府市への反映
当初、DX施策の実施そのものが目的化し、「課題の洗い出し → ツールの選択 → 導入」という本来あるべきプロセスが逆転していたことと、ツール導入前に「そもそもその業務が必要か」を見直すBPRの視点が不足していたことへの反省が、担当課から率直に語られたが、一方で、ハンズオン形式による研修を通じたノーコードツール活用への支援プロセスが、そこに参加した職員にとっては結果的に、自らの携わる業務の改善、効率化に資する機能がどのようなものかを俯瞰的、客観的に整理するとともに、他のICTツールという選択肢も含めた様々な手法を冷静に比較検討してみるという点で、DXマインドセットの効果的な習得機会となった可能性もあるのではないかと推察する。
ノーコードツールの導入が先行する形とはなったものの、そのようなプロセスを経て得られた知見と経験あってこそ、デジタル人材育成の重要性をより強く認識させる大きな要因になり得たとも考えられ、その意味では非常にアジャイル的でもあり、いわば「ハンズオン形式によるDX推進」とでも言うべき興味深い取組事例であると感じた。組織としてのDXマインドセットをどのように進めていくかという観点を含め、ノーコードツールの可能性について重要な示唆を得ることができた。
「ハッピー・ワン・マンス」について【佐賀県】
事業に至った経緯について
佐賀県では、2021(令和3)年10月に、2週間の育児休業取得を促進する「ハッピー・ツー・ウィークス」を導入し、庁内での定着を図ってきた。当初は有給休暇や配偶者出産補助休暇の組み合わせで達成しやすく、男性職員の育児関連「休暇」取得率は100%を達成したものの、地方公務員の育児休業法に基づく無給の「育児休業」取得率は2022(令和4)年度時点で、全国平均56.2%に対して28.4%と低水準であった。より長期の育児参加と、無給育児休業そのものの利用促進を目的として、2023(令和5)年5月からは1カ月の取得を推奨する「ハッピー・ワン・マンス」へと発展させた。制度の背景には、職員の働き方や意識改革を進めるとともに、家庭での子育て参加を広げることで、職員のモチベーションや組織への愛着を高める狙いがある。
取組内容
「ハッピー・ワン・マンス」では、子の出生予定日の約3カ月から2カ月前に所属長と面談し、取得計画書を作成・提出することが義務付けられている。「ハッピー・ツー・ウィークス」に引き続き、従来の取得申請型ではなく、取得しない場合に所属長が不取得理由書を提出する方式とし、管理職の責任を明確化している。係長級以上の職員は人事評価制度において、育休取得促進を組織目標として設定している。
取得の方法については、生活スタイルに応じ、妻の出産前後に育児を伴う休暇・休業を連続で取得する「スタンダード型」、妻の出産前後の必要なタイミングで育児に伴う休暇を分割で取得する「セパレート型」、妻の出産後、育児休業等を取得する「ダブルス型」、妻の仕事復帰と入れ替わりで、育児休業を取得する「バトンタッチ型」の4パターンを提示している。
業務面では、1年程度の長期取得者には正規の代替職員を配置(2027(令和9)年度に60人体制を予定)し、数か月の短期取得者には各部局の会計年度任用職員が定型業務を一時的に応援する体制としている。育休取得者の業務をカバーした職員には、勤勉手当を1カ月ごとに10%(上限15%)加算している。加えて、時間単位休暇を30分単位で取得可能とするなど、日常的な育児参加も後押ししている。
庁内では、子どもが生まれたすべての職員に、所属長からの手書きメッセージ入り「Happy Card」を贈呈するなど、育休取得を職場全体で祝福する雰囲気づくりも行っている。これは「おめでとう!」というお祝いの気持ちや、仕事のことは忘れて、子育てを楽しんでもらうためのメッセージなど、パパ・ママになった職員へ、所属長の思いを直筆で伝えるものである。
なお、教育委員会事務局や県警本部は任命権者が異なるため、本制度については参考として情報共有しているとのことだった。警察では各警察署への巡回等の独自の取組により男性の育児休業取得率が50%を超えているとのことだったが、教育現場では取得の向上が難しい状況がある旨の説明があった。
成果
2022(令和4)年度に28.4%であった知事部局の男性育児休業取得率は、2024(令和6)年度には83.6%へと大きく向上した。「ハッピー・ツー・ウィークス」の取組の定着を踏まえた「ハッピー・ワン・マンス」への移行は概ね円滑であり、制度設計の工夫や管理職の意識改革が組織全体の行動変容を促したとされる。
課題と今後の方向性
説明の中では、育休取得者の体験や意見といった質的なデータの収集方法が今後の検討課題であることが示された。また、育休取得希望者が事前に経験者へ相談できるメンター制度の具体化や、復帰支援の場の改善(男性職員の参加しやすさ向上)、1カ月という取得期間の妥当性等についての中長期的な見直しの可能性にも言及があった。
さらに、県から各市町へ派遣される職員については、派遣先の服務に従うのが基本だが、派遣により職員が不利益を被ることは避けるべきとの原則が示された。具体の対応は個別の調整に委ねられている旨の説明があった。部局ごとの事情に応じた働き掛けも継続的に必要であり、特に教育委員会事務局での取得促進が今後の課題とされた。
所感と大府市への反映
本取組は、トップの明確な意思表示と制度設計の両輪によって短期間で男性職員の子育てを応援するための成果を大幅に挙げた好事例である。育児休業、部分休業、育児短時間勤務など、制度そのものは存在するものの、実際に支障なく自分が利用できるものと認識され、より利用しやすい環境を整えていくために、「不取得理由書」制度や事前面談による取得計画の義務化は、制度の存在を利用促進につなげるための仕組みとして参考になる。
一般論として、制度があっても利用自体が進まない背景には、職場の雰囲気や利用に対する認識が関係している可能性がある。雰囲気づくりや、その制度を誰でも使えると職員が実感できる仕組みづくりが重要だと考える。
育児休業の取得による業務の偏りや負担の集中についても、本取組を踏まえた体制構築が有効だと感じた。本市のように、職員数が限られる自治体ほど顕著になり得る問題であるが、佐賀県のように代替職員の配置や業務の整理を意識した体制構築は重要だと考える。
また、例えば勤勉手当など、金銭的な援助は有効だが、それだけで負担が全て軽減されるわけではない。業務の標準化やチームでのカバー体制を視野に入れることで、制度だけでなく運用も含めた持続可能な環境整備を進めることが望まれる。
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